産業陶器とセラミックスの博物館 (B) (博物館紹介)

―近代産業としての陶磁器とセラミックスの発展をみるー

 この項では、食器、花瓶、インテリア、衛生陶器などの窯業物陶磁器、工業原料となるセラミック製品の製造過程、近代工業製品を展示する博物館、資料館を取り上げている。特に、主要メーカーの創業と発展の記録、 “ものづくり”へのこだわりと技術を紹介。

♣ ノリタケの森 ・ノリタケミュージアム       

所在地:愛知県名古屋市西区則武新町3-1-36  Tel.052-561-7114
HP: (https://www.noritake.co.jp/mori/)
参考:名古屋の「ノリタケ・ミュージアム」を訪ねて https://igsforum.com/noritake-museum-j/

赤煉瓦の工場建屋

→ ノリタケ創業の地名古屋市西区則武にある「ノリタケの森」は、前身日本陶器の工場跡を利用した広い緑地公園からなり全体がノリタケの企業活動を紹介するテーマパークとなっている。敷地内には、「ノリタケ・ミュージアム」、製造過程を見学できる「クラフトセンター」、ノリタケの歴史と事業分野を示す「ウェルカム・センター」などがあり、ノリタケのこれまでの事業全体として紹介されている。また、工場跡地には明治期に作られた赤煉瓦の工場建屋と陶磁器を焼成に使った煙突がそのままの残っており国の近代化産業遺跡にも指定されている歴史的史跡でもある。

クラフトセンター
オールドノリタケ

 このうち、「ミュージアム」では、創立以降ノリタケで作られた多彩な素材やデザインの食器やディナー皿、「オールドノリタケ」を豪華に展示。「クラフトセンター」では、生地から絵付けまでの製作過程、陶磁器づくりの技を現場で再現、特に、洋食陶磁器、ボーンチャイナとその技法、美術陶磁品制作の仕組みと特色などが詳しく紹介されている。

煌びやかな「オールドノリタケ展示
陶器作りに励む職人
ノリタケ洋皿コレクション
ウェルカム・センター

 ノリタケの歴史を振り返る「ウェルカム・センター」では、明治9年の商社「森村組」の創業に始まったノリタケ120年の発展を振り返るコーナー、洋食器制作をベースに近年セラミック事業にも進出ことも紹介されている。世界的高級洋食器メーカーとなったノリタケの沿革、世界の陶磁器産業を見る上でも貴重な博物館であろう。あった。日本の陶磁器事業の歴史と成果を見るには最適の博物施設の一つであろう。

ノリタケのタイムテーブル
洋皿の開発デザイン

<ノリタケの魅力とものづくりの伝統>

創業者 森村
ノリタケの事業展開を示す展示

 展示の中から、ノリタケの創業からの発展を確認して見ると、明治初年に森村市左衛門が森村組を設立し、米国に日本の美術骨董品、雑貨を輸出する事業を開始したときから始まる。1889年には、パリ万博で洋式装飾食器の素晴らしさと商品価値と高さをみて日本での洋式磁器の製作を決意、1917年には衛生陶器部門を分離し東京陶器(TOTO)を設立、その後、碍子部門を1919年に独立(日本碍子)させ、戦後では、1967年、日本レジン工業、伊勢電子工業、広島研磨工業、共立マテリアルなどを設立して工業セラミック事業に参入している。ここでは食器製造で打ち勝った磁器、研削、研磨、セラミック材料開発などの技術を生かして事業を拡大している姿がみえる。現在では、さらにハイテック分野の電子回路や歯科医療、太陽光発電膜、セラミックコンデンサーなどに進出し存在感を示している。これらを見ると日本の伝統産業陶器を新たな形で展開し工業品と美術工芸を融合させていった事業展開、先進的なセラミック事業にも進出しているノリタケの姿は印象深い。これらは、園内施設ウェルカム・センター(テクノロジー・コーナー)の展示でもよく示されている。

ノリタケのセラミック事業の展開を示す展示

ノリタケの歩み:https://www.noritake.co.jp/company/about/history/
ノリタケの森 HP:https://www.noritake.co.jp/mori/look/
ノリタケミュージム  https://www.noritake.co.jp/mori/look/museum/

♣ TOTOミュージアム

所在地:北九州市小倉北区中島2-1-1  Tel.093-951-2534
HP: (https://jp.toto.com/knowledge/visit/museum/)
参考:九州・小倉のTOTOミュージアムを訪ねる/ https://igsforum.com/visit-kokura-toto-m-jj/

TOTOミュージアム外観

 → この博物館は、100周年の記念事業として衛生陶器の”TOTO”がその歴史と技術開発の成果を伝えるべく”ミュージアム“として設立したもの。同社の沿革や製品を展示するだけでなく、社会環境や生活スタイルの変化を反映した「水まわり」全体の文化や歴史を豊富な事例と共に伝える貴重な施設となっている。

エクス日ションホール
TOTO製品の提示

 ミュージアムの展示構成は、創業のルーツと歴史を記す第一展示、日本の水回りの文化と歴史をあらわす第二ゾーン、世界に向けたTOTO各種製品の展示ゾーン、ライブラリーなどとなっている。また、TOTOの水回り陶器がどのように作られるのかを体験できる「工場見学」も行っているようだ。 トイレ機器の歴史や浴室・洗面所などの水回りの施設の機能が現在どのようになっているのか、時代とこれがどのように変化してきたのかを知るのに最適の博物館施設といえるだろう。

衛生陶器の進化
衛生陶器のバラエティー
最近のハイテク部品の使った衛生陶器の内部

 展にの中なかで最も印象に残ったのは、生活スタイルの変化を反映した「水まわり」の文化や歴史を紹介するコーナー。壁面には大きな展示パネルがあり、昔からの「トイレ」の形や排泄物処理の社会システムが丁寧に説明されている。

和式から洋式へ
貯蔵式の便器
昔の厠

 展示では、厠」、「雪隠」などのいわれた昔の「排泄」のリサイクル、「和式」から「洋式」便器への変化、「排貯蔵式」から「水洗」に移っていった経過、そして現在のウオッシュレットに移る過程は興味深いものがある。

陶器の制作過程

  また、製品だけでなく、その製作過程も映像などでみられるのもこの博物館の特色。展示ホールの一角には映像コーナーが準備されていて、衛生陶器や浴槽などの焼成、機能部品の取付け、組み立て過程などがビデオで確認できる。 多様なかたちで存在する世界中の珍しい浴槽、トイレの紹介も興味の湧く展示であろう。

参考となる資料:
・TOTOミュージアム Web site: http://www.toto.co.jp/museum/
・「水と暮らしの物語」http://www.toto.co.jp/museum/history/
・衛生陶器の基礎知識 http://kk-daiwa.co.jp/blog/log/eid17.html
・「トイレ年表」財団法人 日本レストルーム工業界:http://www.sanitarynet.com/history/

♣ 碍子博物館(日本ガイシ)

所在地:名古屋市瑞穂区須田町2番56号  Tel.052-872-7181
HP: https://www.ngk.co.jp/rd/labo/museum.html)

碍子博物館の展示場

 → 日本ガイシは高性能碍子はじめ世界有数のセラミック材料の製造メーカーであるが、この日本ガイシが自社の発展の基礎となったガイシの科学研究にし資するため設立したのが、この「ガイシ博物館」。この博物館では、国産最古のピン・ガイシはじめ世界21ヵ国のガイシを収蔵・展示。材料開発と形状変化の歴史を確認できる資料館となっている。日本ガイシの電力技術研究所に併設されているもので、国産ガイシの現有品では最古の物とされる通信用ピンがいし(1875年製)から、世界21ヵ国、57メーカーのガイシ、保守工具類も含め約5,000点余を収蔵、300点ほどを常時展示している。これらガイシの形状の変化と進化、セラミック材料開発の足跡を見ることができる。また、ガイシに関わる古文書、文献、ガイシの歴史などが総合的に展示されているので参考になると思われる。しかし、残念ながら(研究用の施設のためか)一般には公開されていないのがくやまれる。

博物館の碍子展示(1774)
世界の碍子
高性能碍子

(日本ガイシの沿革とセラミック事業)

日本ガイシ本館


 日本ガイシ(日本碍子株式会社、NGK)、電力用ガイシ・セラミックス製造を主力とする世界最大級のセラミックスメーカーのひとつである。1910年代、日本陶器(現・ノリタケ)からガイシ製造部門を分割し設立された。ガイシ製造と会社設立は、1905年、芝浦製作所(現・東芝)の技師が日本陶器に米国製の「がいし片」(碍子博物館蔵)を見せ、高圧碍子の製造を打診し開発に取り組んだことがきっかけであったといわれている。そして、1936年には スパークプラグ部門を分社化し日本特殊陶業を設立、1986年、社名を日本ガイシに変更して今日に至っている。

日本ガイシの創業
創業当時の本社工場(1919)

この間、1929年には「100万ボルト級の高電圧電気試験設備」が完成、1930年には「NGスパークプラグ」の生産を開始している。また、1940年代には「短波ガイシ」、1950年代には「中実SPガイシ」の生産へと進んでいる。1970年年代には世界最大強度の「懸垂がいし」も開発している。

NGスパークプラグ
中実SPガイシ
世界最大強度の820kN「懸垂がいし」(1978)

ハニセラム

一方、技術開発を進めていたセラミック材料の取り組みから、1950年代には碍子以外の「ベリリウム」の研究を進め、1958年には「ベリリウム銅母合金」の生産、1976年には自動車排ガス浄化用触媒担体「ハニセラム」の生産を開始している。 さらにエンジニアリング事業にも進出していて、1970年代には「汚泥焼却炉」の完成、「低レベル放射性廃棄物焼却装置」(1978)とセラミックを基盤とした事業の多様化を進めている。近年では、「GaNウエハー」の開発、「サブナノセラミック膜」の生産、「半導体製造装置用セラミックス」の量産など、ナノテクノロジーを活用したセラミックス先端企業として知られる存在となっている。博物館では、碍子から始まったこれら技術発展の跡を訪ねることができるであろう。

UHV変電用ガスブッシング(1995)
低レベル放射性廃棄物焼却装置(1978) 
チップ型セラミックス二次電池(2018)

・参考:https://www.ngk.co.jp/ 日本ガイシ株式会社 (ngk.co.jp)
・参考:NGKサイエンスサイト | 日本ガイシ株式会社 https://site.ngk.co.jp/
・参考:ヒストリー|100周年記念サイト|日本ガイシ株式会社 (ngk-global.com) https://www.ngk-global.com/100th/jp/history/
・参考:セラミックス博物館 (ceramic.or.jp)  送電用及び変電用碍子 https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/hatsuden/hatsuden01.html
・参考:懸垂碍子 文化遺産オンライン (nii.ac.jp) https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/145954
・参考:日本碍子 – Wikipedia

♣ INAXライブミュージアム      

所在地:愛知県常滑市奥栄町1-130  Tel.0569-34-8282
HP: (https://livingculture.lixil.com/ilm/)

ライブミュージアム概念図

 → 「INAXライブミュージアム」は、愛知県常滑市で創業したINAX(旧伊奈製陶)が提供するものづくり文化施設。同社の製作する歴史的な陶磁器、タイル、建材などを展示するほか、やきものの歴史や技術を詳しく紹介している。施設内には「窯のある広場・資料館」「世界のタイル博物館」「建築陶器のはじまり館」などからなっていて、それぞれが陶磁器に関する魅力ある展示を行っている。

窯のある広場・資料館

 このうち「窯のある広場・資料館」は“土つくり”と“やきもの”の歴史や技術を詳しく紹介する施設。大正時代に建造された土管工場の大きな窯と建屋、煙突を保存・公開しているほか、大正から昭和40年代にかけて隆盛した常滑の土管産業の様子を今に伝えている。(https://livingculture.lixil.com/ilm/facility/kiln/

製造に使われた道具や機械
両面焚倒焔式角窯

世界のタイル博物館

 次の「世界のタイル博物館」は、タイルの専門博物館で、紀元前から近代までの世界の装飾タイル7000点以上を収蔵、タイルの歴史や文化に関する研究を進める共に、展示を通してタイルの美しさと先人の熱き装飾の心を体感できる。(https://livingculture.lixil.com/ilm/facility/tile/

世界の装飾タイル展示
化粧タイル

建築陶器のはじまり館

 最後の「建築陶器のはじまり館」では、明治時代初期から1930年前後の建築陶器の全盛期に至る日本を代表する芸術性の高いテラコッタを展示。ここでは新しい時代の建物が次々と建てられた大正から昭和初期の外壁を飾った美しい“やきもの”製のタイルとテラコッタが見られる。(https://livingculture.lixil.com/ilm/facility/terracotta/

テラコッタの展示
警視庁庁舎に使われたタイル(1931)

<INAX創業の歴史と現在>

伊奈初之丞
INAX本社ビル(現LIXIL常滑本社)

 ちなみに、INAX(イナックス)は、LIXILが展開する衛生陶器・住宅設備機器・建材のブランド名で現在のLIXILの前身の一つ。同社の背景を見ると1921年(大正10年)、初代伊奈初之丞が大倉陶園創業者である大倉和親の支援を受けて匿名組合伊奈製陶所を創業し、陶管(土管)やタイル等の建設用陶器を製造したのがはじまり。1924年に伊奈初之丞の長男伊奈長三郎が法人化を行い、森村グループのタイルメーカーとして伊奈製陶株式会社を設立した。1945年には衛生陶器の製造を開始し、同じ森村グループに属する東洋陶器株式会社(後のTOTO)とライバル関係になっている。1985年、伊奈製陶は株式会社イナックスに商号変更、2011年、幾つかの住生活グループ日軽、東洋エクステリア、、新日軽、東洋エクステリア、LIXILなどと合併し、新会社LIXIL(2代目法人)となり、INAXは同社における製品ブランド名の一つとなっている。

参考:
・常滑焼とは:https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post/118158
・常滑焼とは:急須から招き猫まで幅広いものづくりの特徴と歴史 | 中川政七商店の読みもの(https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post/118158
・常滑市(https://www.city.tokoname.aichi.jp/

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♣ 京セラファインセラミック館              

所在地:京都府京都市伏見区竹田鳥羽殿町6番地  Tel.075-604-3518
HP: https://www.kyocera.co.jp/fcworld/museum/)
参考:京セラ「ファインセラミック館」の見学記録 https://igsforum.com/2022/09/24/kyocera-fineceramic-museum-jj/

京セラ本部ビル(このロビー階にセラミック館がある)

→ 半導体の素材メーカーとして知られる京セラのファインセラミック技術を実際の製品と共に紹介するのが京セラファインセラミック館、焼き物の歴史から最先端のファインセラミックへとつながる陶磁器技術の展開も理解できる展示を行っている。ここでは京セラの沿革、技術発展、歴代の開発製品、近年の取り組みなどをパネルや実物で詳しく紹介している。

セラミック館の展示
セラミック基礎知識の展示

 また、同社の事業活動の紹介と共に、「ファイン」と名付けた工業材料“セラミックス”の詳しい内容解説があり、その物性、利用範囲、活用可能性について科学的に解説する興味深い展示がなされている。また、併設された「稲盛ライブラリー」は、創業者稲盛和夫氏の生い立ち、会社創立と事業への姿勢、経営哲学などを紹介する資料を行っている。

<ファインセラミック館」の展示内容>

土器から始まったセラミックの歴史展示
京セラの事業展開を示す年表パネル

 「ファインセラミック館」に入ると、まず、導入部として、陶磁器(狭義のセラミック)が、どのようにして電子素材に転換され発展してきたかを示す展示がなされる。綺麗に配列された陳列棚には、土器、須恵器、青磁などの陶器・粘土製品が、時代を追って“ファイン”セラミックスと変容し、碍子や絶縁材料などの電気部品として高度化、多様化していく姿が時系列的に見事に展示されていて非常に興味深い。また、企業としての京セラの成長の姿が製品展示と共に年表形式で掲示されている。

多様なセラミックス素材の展示
セラミックスの知識と特性を解説するセラミックスワールド

 次のコーナーには、ファインセラミックスの組成、特性、活用範囲などの展示となっていて、それぞれの物性の科学的説明がなされている。また、この展示では、京セラが実際に開発した電子素材の実物を見ることができ、いかに京セラがセラミックの応用技術を進化させていったかがよく理解できる。

極限の世界でも使われる電子素材セラミックス
京セラギャラリーの展示

 また、ハイライト展示として「ファインセラミックス・ワールド」が設けられていて、ファインセラミックススの基礎知識、技術の変遷、宇宙など極限世界での応用などの技術解説が抱負になされているのは魅力的である。これによりセラミックスのより深い理解が得られるよう工夫された館構成となっている。現在の京セラの製品を一覧できる「京セラギャラリー」も興味深い。

参考資料:
・京セラファインセラミック館のご紹介 | https://www.kyocera.co.jp/fcworld/museum/
・京セラ (kyocera.co.jp) HP https://www.kyocera.co.jp/
・「京セラ株式会社」の始まりと原点 http://atuiomoi.net/keieirinen/?p=74
・ファインセラミックス ワールド | 京セラ (kyocera.co.jp) https://www.kyocera.co.jp/fcworld/

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♣ セラミックス博物館(日本セラミックス協会

所在地:東京都新宿区百人町2-22-17 Tel. 03-3362-5231
HP: https://www.ceramic.or.jp/museum/  セラミックス博物館 (ceramic.or.jp)
参考:日本セラミックス協会(https://www.ceramic.or.jp/

 → 「セラミックス博物館」は「やきもの」から最先端のファインセラミックスまでを網羅し解説。現行製品以外のアーカイブ的なコンテンツや子供向けの啓発コンテンツから専門家向けの解説コンテンツまで、生活の中でのセラミックスの活躍について、わかりやすく紹介。
 コンテンツとして以下のものがある。
「にほんのやきもの」(https://www.ceramic.or.jp/museum/yakimono/contents/history.html
「子どものためのセラミックス」https://www.ceramic.or.jp/csj/hakubutsukan/kodomo/index.html
「参考資料・セラミックスとは・・」https://www.ceramic.or.jp/about/ceramics_info/

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