
日本の織物文化の長い歴史をみると、多様な生地、素材を使い独自の染織技法を発達させてきたことがわかる。これらは様々な形で民衆の間で伝承され、時代ごとの流行や生活様式に生かされてきた。また、技術的にも手織りから機械の導入、様々な織り方、生地染料の開発により多様な織物が生まれてきている。日本各地には、これら染織技術の歴史と伝統、現代の織物文化のありようを示す博物館、資料館が数多く存在している。今回、これら施設の歴史、特色、展示などを取り上げてみることとした。特に、この項では各地の有力な織物工芸館、西陣、友禅など歴史ある織物工芸施設を紹介している。
♣ 川島織物文化館
―西陣・綴錦の芸術性を今日につなぐ貴重な博物館――
所在地:京都市左京区静市市原町265 川島織物セルコン内 Tel.075-741-4120
HP: https://www.kawashimaselkon.co.jp/bunkakan/use/
○参照:西陣の伝統を紡ぐ川島織物文化館 (博物館紹介)https://dailyblogigs.com/2024/09/04/kawashima-orimono-m-jj/


→ 川島織物(現・川島織物セルコン)は京都の伝統産業、西陣織物門企業の一つ。この川島織物が日本の伝統的な染織技術と織り技術の粋を伝えよう設立したのが「川島織物文化館」である。この文化館には、日本の古代からの歴史的織物作品をはじめ、世界各国から収集した多様な染織品が展示されている。特に、川島の絵画を越えるほどの美術織物の展示が見事である。

また、文化館は、川島の研究開発機関の役割も担っており、伝統技術の手織り工場、教育・研修の場としてカワシマ・マイスター・スクールも併設されており、技術と文化を融合する機関となっている。 中でも、織物文化の歴史を知ることの出来る数万点のコレクションを蒐集し展示しているのが目立つ。日本の古代からの織物、世界の染織品など8万点、日本の織物に関するコレクション2万点、綴織り絵画作品や織下絵など約6万点が収納されている。日本の織物研究の拠点の一つでもある。このうち常時展示しているのは一部であるが、このどれを見ても文化的に見ても貴重で且つ芸術性にあふれた作品群となっている。
○参考:京都の芸術性のあふれた「川島織物文化館」を訪ねてhttps://igsforum.com/%20visit-kawashima-textile-museum-j/



♣ 織物技術の伝統を伝える京都の西陣織会館
所在地:京都市上京区堀川通今出川南入ル 西側 Tel. 075-451-9231
HP: https://nishijin.or.jp/nishijin_textile_center/



→「西陣織会館」は西陣織工業組合が運営する京都西陣織の資料館。西陣織は、京都の先染め織物をまとめた呼び名で、綴、 錦(金襴)、緞子、朱珍、絣、紬などの多彩な糸を用いた先染めによる高級絹織物、昭和51年には国の伝統的工芸品の登録商標に指定されている。西陣」の織物は、江戸時代、京都を中心に支配者層や富裕な町人の圧倒的な支持を受け普及し最盛期を迎えたが、幕末には戦乱の中でやや衰退する。しかし、明治になって近代織機(特に、ジャカード織機)を導入、新しい西陣織物の量産が可能になり、伝統職人の技術向上も受けて復活、現在では西陣織が日本を代表する高級京都着物として高い評価を受けている。



会館では、常設展を設けて京都市指定文化財である明治期における木製ジャカード機(国産第1号機)をはじめ、西陣近代化の経緯を伝える貴重な展示品を紹介している。また、企画展では、年に3~4回、テーマを設けて織物展示を行っており、帯、きもの、几帳、裂地、貼交屏風、美術的工芸品など、西陣織の伝統美の数々を披露している。2024年春には、江戸時代以降から近代の所蔵品を展示。宮中女性の正装である十二単をはじめ、平安期から身に着けていた男性の狩衣など、古代裂を含めて品格を備えた優美な装束を紹介している。また、会館の資料には西陣織の歴史と技術の成り立ち、現在の姿も紹介しており参考になる。
(参照:西陣織とは( 西陣織工業組合) https://nishijin.or.jp/whats-nishijin/)
♣ 手織ミュージアム・織成舘 (https://orinasukan.com/)
所在地: 京都市上京区浄福寺通上立売上る大黒町693 Tel.075-431-0020
HP: https://orinasukan.com/


→ 「織成舘」は、西陣を中心として日本各地の手織物や時代衣装、を収集・展示している手織技術の博物資料館。西陣の帯地製造業「渡文」の初代当主・渡邉文七氏の自宅兼店舗であったという西陣織屋建の町屋を活かした手織ミュージアムである。手織文化の代表格とも言われる能装束(復元)が展示されており、その他全国の手織物、能装束、時代衣装の鑑賞ができ、工房見学、手織の体験もできる。
建物自体も貴重で、吹き抜けの天井、天窓、大黒柱など、織屋ならではの独特の風情をもっている。また、座敷や奥の坪庭などが当時のまま残されており建物全体が西陣織の伝統を伝える場となっている。
○ 参考:【手織ミュージアム 織成舘】https://recotripp.com/spot/25291
♣ 加賀友禅伝統産業会館
所在地:石川県金沢市小将町8-8 Tel.076-224-5511
HP:http://www.kagayuzen.or.jp
参考:https://travel.navitime.com/ja/area/jp/spot/02301-14402020/


→ 金沢に数ある伝統工芸である加賀友禅の魅力と歴史、制作工程を幅広く展示し、加賀の武家文化のなかで育った加賀友禅の個性と技を体験できる博物施設。館内では、加賀友禅の実物が並んだ展示コーナーを中心に、加賀友禅の質感や色合い、精緻な絵柄を間近で見ることができる。また、正面左側の壁には加賀友禅の歴史や制作工程もわかりやすくパネル解説している。加賀友禅を身近に感じられる彩色を体験できるコーナーもある。


<加賀友禅の特徴と歴史>
加賀友禅のルーツは今からおよそ500年前、加賀国独特の染め技法だった無地染めの「梅染」にさかのぼるという。京都で友禅染めの始祖となった扇絵師・宮崎友禅斎が、金沢に招かれ、北陸の気候風土や武家文化の土壌に合った加賀友禅を発展さ勢多と伝えられる。加賀友禅は、臙脂(えんじ)、藍(あい)、黄土、草、古代紫の「加賀五彩」を基調に、花鳥風月を写実的に描く絵柄が特徴といわれる。加賀友禅の代表的な技法は「外ぼかし」などで自然描写を重んじる加賀のものづくりの気風を示すとされる。
参照1:https://travel.navitime.com/ja/area/jp/spot/02301-14402020/
参照2:加賀友禅の特徴 や歴史- KOGEI JAPAN(コウゲイジャパン)https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/kagayuzen/
<参考> なお、加賀友禅の作品展示、彩色体験や着装体験ができる施設として「加賀友禅工房・長町友禅館」などがある。
「加賀友禅工房・長町友禅館」
→石川県金沢市長町2-6-16 Tel.076-264-2811 (https://kagayuzen-club.co.jp/)
♣ 博多織会館(博多織ギャラリー)
所在地:福岡県福岡市博多区博多駅南1-14-12 Tel. 092-472-0761
HP: https://hakataori-gallery.jp/


→ 博多織は、たくさんの経糸(たていと)に、細い糸を数本まとめ合わせた太い緯糸(よこいと)を力強く打ち込んで作られる絹織物である。1976年に国の伝統的工芸品に指定されている。江戸時代、黒田長政が幕府への献上品として博多織を用い、その際の柄が後に「献上柄」として博多織の代表的な柄となった。これ以降、献上博多織は、献上された独鈷華皿文様の博多織として一躍ブランドになっている。この博多織を一堂に展示している。
参考: 博多織ギャラリー(|福岡市観光情報サイト)https://yokanavi.com/spot/214108/


♣ 米沢織物歴史資料館

所在地:米沢市門東町1丁目1-87 米織別館内 Tel.0238-23-3525
HP: http://yonezawanet.jp/yoneori/

→ 米沢藩主上杉鷹山が、藩財政建て直しのために殖産振興として奨励した米沢織。米沢織物歴史資料館には米沢織物の歴史資料、機織り機や米沢織の作品などが展示されている。館内にある「織陣」では展示販売や機織体験コーナーもある。
○ 参考: 米沢織物とは(米沢繊維協議会) https://www.yoneori.com/what/
・https://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/silkwave/silkmuseum/YYoneori/yoneori.htm
・https://www.thr.mlit.go.jp/yamagata/river/enc/genre/08-kan/kan0104_038.html



♣ 石川繊維資料館(豊橋市)
所在地:愛知県豊橋市東小田原町109-1 Tel. 0532-52-5265
HP: http://www.tees.ne.jp/~silk/

→ 豊橋市は、明治・大正・昭和の長期にわたり、信州とならんで蚕糸業の二大中心地でした。本館には、明治末期ごろから今日まで実際に豊橋や東三河で使用された製糸の道具や機械・養蚕具・ガラ紡機・織機・糸車などとともに繊維関係の版画が展示されている。



♣ 桐生織物記念館
所在地:群馬県桐生市永楽町6-6 Tel. 0277-43-2510
HP: https://kiryuorimonokinenkan.com/


→ 織物会館は、桐生織物協同組合が入居する産業会館で中に資料展示室があり、桐生織の伝統的な技術、技法などをその工程に沿ってさまざまな道具や作品などを展示・紹介している。また、最新の技術から歴史的な資料や文献にいたるまで「桐生織」の持つ魅力とダイナにズムを紹介している。
参考:桐生織物協同組合 http://www.kiryuorimono.or.jp/


♣ 織物参考館“紫”(ゆかり)
所在地:群馬県桐生市東4丁目2番24号 Tel. 0277-45-3111HP: http://www.morihide.co.jp/yukariNEW/indexYK.html


→ 織物参考館“紫”では、日本の伝統織物の歴史を知ってもらうため、古い染織技術、文化の発展、足跡を物語る貴重な資料1200点余りを展示している。特に、織物古器具、古織機等の保全、管理、公開をはかっており、現在も行なわれている「まゆ」から糸をとり染色して織土げる過程を紹介、今と昔の染織産業への理解を深めることを期待している。また、新企画と致して、現在実際に活動している織物工場を解り易く見学、桐生織物1,300年の歴史が実感として体験できるプログラムも用意している。
・参照:https://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/silkwave/silkmuseum/GYukari/GYukari.htm



♣ はたや記念館 ゆめおーれ勝山(勝山市)
所在地:福井県勝山市昭和町1丁目7-40 Tel. 0779-87-1200HP: https://www.city.katsuyama.fukui.jp/hataya/


→ 「記念館ゆめおーれ勝山」は、織物の世界が楽しめるよう設立された文化記念館。昭和時代に活躍した織物関連の機械が臨場感たっぷりに展示されている。建物は、明治38年から100年近く勝山の中堅機業場として操業していた建物を保存・活用したもの。はたおり機、まゆからの糸取りなどを体験しながら織物産業の歴史や織物のしくみを学ぶことができる。


♣ 手織りの里「金剛苑」
所在地:滋賀県愛知郡愛荘町蚊野外514 Tel. 0749-37-4131


→ 愛荘町周辺は、古くから近江商人を通じて「近江上布」が伝統織物として知られていた。このうち川口宇蔵が明治期織物会社「川口織物」(当時は宇蔵商店)を設立、昭和53年(1978)2代目川口宇蔵が伝統工芸の技術とその歴史を後世に残すことを目的に金剛苑を建設。園内には往時を偲ぶ資料館、金剛庵、染色工房が配置された。施設内には、日本人に馴染み深い“藍染め”を体験できる染色工房。実際に使われていた機織り機などが展示されている。 参照:https://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/silkwave/silkmuseum/SHKongou/kongouen.htm
♣ 浦野染織資料博物館
所在地:長野県諏訪郡下諏訪町曙町5350 Tel: 0266-27-8503
https://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/silkwave/silkmuseum/NUrano/urano.htm

→ 下諏訪の「街かど博物館」の一つで、室町時代から茶人、武士などが愛用の小物として使ったという「名物ぎれ」、江戸時代の更紗、江戸末期から公家などが愛用した外衣の被布、大正時代の刺繍手本、染織に使う型紙・木型、染め柄、機織り道具などが展示されている。
参考:https://www.museum.or.jp/museum/3697
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<参考資料>:
・中川政七商店の読みものー染物・織物とは、多様な種類と日本の布文化の歴史―https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post_category/dyeing-weaving
・遠藤元男・竹内淳子 著『日本史小百科』近藤出版社 (1980年)
・小笠原小枝 著『染と織の鑑賞基礎知識』至文堂 (1998年)
・河上繁樹・藤井健三 著『織りと染めの歴史―日本編』昭和堂 (1999年)
・滝沢静江 著『着物の織りと染めがわかる事典』日本実業出版社 (2007年)
・中江克己 著『日本の伝統染織辞典』東京堂出版 (2013年)
・日本工芸会 編『日本伝統工芸 鑑賞の手引き』芸艸堂 (2006年)
・日本工芸会東日本支部 編『伝統工芸ってなに? -見る・知る・楽しむガイドブック-』芸艸堂 (2015年)
・萩原健太郎 著『民藝の教科書② 染めと織り』グラフィック社 (2012年)
・丸山伸彦 著『産地別 すぐわかる染め・織りの見わけ方』東京美術 (2002年)