郵便の博物館ー郵政事業の歴史と現在をみる(博物館紹介)

 ー郵便制度はどのようにはじまり現在につながっているかー

 明治4年、日本に近代的な郵便制度が導入されてから約160年になる。この間、手紙やハガキ、小型配送、貯金・保険など、郵便は多様な形態の発展を遂げ、今や各地域社会の郵便局は日常生活に欠かせない存在となっている。現在の情報通信手段は、電話、インターネットなど多彩な展開をみせているが、郵便制度の重要性は昔も今も変わりないであろう。今回は、郵便関係の博物館の紹介を通じて、歴史的な文書伝達手段やその変遷、情報と通信のあり方、情報文化の多様性など、現代社会を支える通信システムについて考えてみたい。
 取り上げるのは、JPの郵政博物館、切手の博物館、手紙の博物館などである。

♣ 郵政博物館(日本郵政)

所在地:東京都墨田区押上1-1-2 東京スカイツリータウン Tel:03-6240-4311
HP: https://www.postalmuseum.jp/about/
・参考:東京・墨田の「郵政博物館」の訪問 https://igsforum.com/visit-postal-museum-j/

郵政博物館の展示場入口

  → この郵政博物館は、1902年、当時の逓信省が開館した「郵便博物館」を前身として、2014年に誕生した博物館。日本の郵便および通信に関する収蔵品を展示・紹介している。郵便による手紙や小包などは、今日、日常生活ではごく当たり前の通信システムとなっている。しかし、それがどのような歴史的な背景のなかで生まれ、発展してきているのか、社会的意味は何なのかを意識することは少ない。その意味で日本郵政の「郵政博物館」は大変貴重な博物館となっている。館内は、郵便の歴史や話題を紹介する常設展示室、企画展示室、多目的スペースなどで構成されている。内部には約33万種の切手展示のほか、国内外の郵政に関する資料約400点を展示されている。このうち、常設展示場は、郵便の歴史のほか手紙、切手、郵便貯金、簡易保険に分かれて多様な収蔵品の展示がある。企画展示で、重要文化財の「エンボッシングモールス電信機」、「平賀源内伝 エレキテル」、「ブレゲ指字電信機」なども随時(不定期)されているのも見逃せない。 

館内展示コーナー
陳列された各種の展示物

以下に博物館での展示内容を紹介してみる。

<郵便の起源と歴史を語る展示>

前島密

 郵便制度が生まれた経過は「郵政博物館」正面の歴史コーナーで詳しく解説展示されている。これによれば、日本の近代郵便制度は、西欧の郵便制度に学びつつ、明治3年(1870)に前島密が「郵便局」制度を建議したことに始まるとされる。前島は、その後「日本郵便の父」と呼ばれるようになるが、その胸像も正面入り口に設置され氏の功績がたたえられている。ちなみに「郵便」という名前も前島がなつけたものであるという。

初期のポスト
初期の郵便配達具
郵便制度の歴史パネル

 郵便制度については、その後、1871年に東京、京都、大阪に「郵便役所」が創設され日本の郵便事業が公式に開始された。これに合わせて全国に1000カ所を越える「郵便局」が設置され、郵便のネットワークが日本全国に広がったと伝えられる。会場には明治初期の郵便ポストも展示されていて、ポストに「投函」することで手紙が相手先に届く簡便さが、郵便利用の増進と大量配送を促しコストの低下とシステムの拡大を可能にしたことがわかる。手紙などの郵便物処理と配達の仕組みや手段の変遷もおもしろい展示である。郵便配達夫の乗り物、配送区分用具や計量器、消印スタンプなどの展示が当時の郵便の姿を再現させている。

最初の郵便スタンプ
初期の郵便カウンター
初期の配送区分用具

<郵便の象徴・切手の総合展示>

日本最初の切手

  博物館のハイライトの一つは、日本の例題切符のほか、世界各地から集めた33万点にも上る「切手」のコレクションである。広い展示コーナーに縦型の引き出し式の展示棚が設置されており、北米、ヨーロッパ、中南米のほかアフリカ、大洋州などの貴重な切手類がぎっしり収納してある。棚を開けると、各国の歴史的人物や風景、珍しい動植物の切手が一覧できる。世界の多様が郵便という手段で世界が結びついていることを感じさせる展示である。

貯金カウンター

<郵便貯金と郵便保険の展示>

 そのほか、郵便局を利用した小口の貯金制度、保険などが歴史経過を踏まえてどのように構築されてきたのかの展示もあり、今日の「郵便局」や「特定郵便局」の業務との関連を見る上でも参考になる。

<参考> 郵便の起源と日本の文書交換の歴史

→ ここでは博物館展示に依拠しつつ、日本と世界の郵便の起源と歴史をみてみる。

明治の郵便制度による文書伝達
飛脚の一般化

 情報伝達の起源をみると、最も古い日本の遠距離通信手段は律令時代からはじまったと伝えられる。このとき設けられた「駅制」と「伝馬」が主要街区間の伝達制度の基礎であった。鎌倉時代にになると人馬による「飛脚」による文書相互伝達がはじまり、政治的な文書交換が行われた。江戸時代には「飛脚」業者があらわれ、武士だけでなく町人も盛んに手紙を交換して連絡しあうようになっている。江戸を中心として街道の整備や宿場施設などの交通基盤が整備されたことも大きかったようだ。明治になり、郵便制度が導入されると新たな文書通信手段が生まれ、民間に広く普及するようになる。この様子は、郵政博物館の展示の中によく示されている。

マナスティック・ポストの図

 一方、ヨーロッパ社会では、教会・修道院を統率するために12世紀はじめに起こった「僧院飛脚・マナスティック・ポスト」が郵便の起源であるとされる。また、近代郵便の起源は、16世紀ヨーロッパのオーストリア・パプスブルグ家が主導した商業目的も含む定期文書郵便がはじまりとされる。その後、1840年、ヨーロッパでは、英国人ローランド・ヒルの考案による均一料金郵便制度が英国で施行されたことにより、本格的な近代郵便の基礎が確立された(「ペニー郵便制度」)。

<参考資料>

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♣ 郵政博物館資料センター

所在地:〒272-0141 千葉県市川市香取 2-1-16
HP: https://www.postalmuseum.jp/guide/postalmuseum.html

郵政博物館資料センター

 → 郵政博物館資料センターは、郵政博物館の収蔵する資料を保存、管理、調査・研究する活動を行う施設である。センターでは収蔵資料に関する照会のほか、資料の閲覧・撮影等の申請に対応している。
 ・参考:資料利用の申し込み https://www.postalmuseum.jp/request/data.html 

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♣ 沖縄郵政資料センター

所在地:沖縄県那覇市壺川3‐3‐8 那覇中央郵便局2階
HP: https://www.japanpost.jp/corporate/facility/museum/index06.html

沖縄郵政資料センター

 → 沖縄郵政120周年を記念して1994年に開館されたのが「沖縄逓信博物館」。2007年に沖縄郵政資料センターと名称を変更している。ここでは琉球王府時代から琉球藩時代を経て、戦中・戦後に至る沖縄の郵便や通信の歴史を分かりやすく展示している。琉球政府時代(1948年から1972年)の24年間に発行された琉球切手をはじめ、沖縄における郵便に関する資料などが数多くみられる。

琉球切手
沖縄郵便史資料
昔の沖縄のポスト

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♣ 前島記念館 (日本郵政)

所在地:〒943-0119 新潟県上越市下池部1317-1
HP: https://www.postalmuseum.jp/guide/maeshima.html

前島記念館外観

 → 郵便の父と言われる前島密の生家跡に建てられた記念館。明治の文化・政治に幅広く力をふるった前島密の実像を、多くの資料と遺品で紹介している。前島の功績を長く記録する目的で、1931年、生誕の地(新潟県上越市、上野家屋敷跡)に建設された。館内には、氏の業績を分かりやすく紹介するパネル展示をはじめ、当時の手紙幅や遺品、遺墨(絵や絵画)など約200点の展示物が幅広く陳列されている。この中には、前島密の生涯と業績を絵画・直筆のノート・駅通権正辞令類、大久保利道や伊藤博文らとの交流の様子を示す手紙、前島の趣味の品々(書画・漢詩など)がある。また、別館では、ジオラマによる前近代の通信の様子、郵便制度を象徴するポストの変遷や通信機器(電話)の変遷をテーマとした実物展示もある。また、前島密の生涯を描いたエピソード「前島密一代記」などもあり参考になる。

前島密の記念品展示
前島密と郵便の年表

・参照:前島密一代記https://www.postalmuseum.jp/column/collection/maejima-history.html
・参照:日本郵政株式会社郵政資料館分館前島記念館(神社博物館事典WEB版 )https://www2.kokugakuin.ac.jp/museum/jinja/18/18_maejima.html
・参照:東京都中央区歴史逍遥<2> ~郵便の父・生誕地に建つ「前島記念館」(中央区観光協会特派員ブログ) https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=387

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♣ 坂野記念館 (日本郵政)

所在地:岡山県岡山市北区栢谷1039-1
HP: https://www.japanpost.jp/corporate/facility/museum/index03.html

坂野鉄次郎
坂野記念館外観

 → 郵便事業の運営に科学的調査分析方法を導入した坂野鉄次郎の記念館。坂野は郵便のための通信地図を創案したり、郵便物区分規程を制定したりするなど「郵便中興の恩人」と呼ばれている。記念館は、1953年に設立され、開館40周年を契機に現在の岡山市に移転・新築された。館内には、坂野の業績のほか、郵政事業の歩みなどを模型で分かりやすく紹介する展示がなされている。

館内の展示
坂野の郵便地図

・参照:「郵便中興の恩人」の生誕150年展 https://www.asahi.com/articles/ASRCV755MRCVPPZB001.html
・参照:坂野記念館 – Wikipedia

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♣ お札と切手の博物館(国立印刷局)

所在地:東京都北区王子1-6-1 03-5390-5194
HP: https://www.npb.go.jp/museum/index.html

お札と切手の博物館

 → 日本と世界の珍しい紙幣と切手、旅券、収入印紙などの印刷技術、デザインなどを紹介する博物館。1971年に大蔵省印刷局創立100年を記念して市谷に設立されたが、その後、王子に移転し、2011年に現「お札と切手の博物館」として開館された。1階の展示室では、紙幣の信頼性を保持するための各種「印刷)技術について紹介、2階には、歴代の紙幣や切手約700点の展示があり、社会背景の変化や技術の進歩による紙幣と切手デザインの移り変わりを示す展示構成となっている。博物館は、主として偽造防止など”お札”の印刷技術の解説を行うものであるが、今回は、切手の展示についてのみ紹介することとする。

<世界の切手と日本の切手>

館内2階の展示コーナー

 博物館2階の展示コーナーでは世界と日本の貴重な切手類が幅広く展示されている。ここでは、世界各国で発行された切手、日本の歴代の切手が紹介されている。世界の切手では、世界地図とともに展示した各国の切手約280点が展示されており、デザインの多様性が見どころ。自国の産業や動物等を描いてお国柄を表す国がある一方で、国とは全く関係がなくても人気のあるテーマ(他国の俳優、世界遺産等)を採用する国など多様である。一方、日本の切手コーナーでは、初期の不十分な技術の下で作られた簡単なデザインの切手、人物を主体にした切手、文化財や風景を描いた切手など日本社会の変化を題材にしたものが多くみられる。切手は「小さな芸術品」とも呼ばれるが、その小さな面積に、精巧なデザインを美しく印刷するための技術は年々変化している。博物館展示で、日本の切手と世界の珍しい切手を比較することで、国々の印刷技術と社会性の相違をみることができると思われる。

世界の珍しい切手展示
日本で最初の切手展示
最近の日本の切手

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♣ 切手の博物館(水原フィラテリー財団)

所在地:東京都豊島区目白1-4-23 Tel. 03-5951-3331
HP: https://kitte-museum.jp/

  → 世界でも珍しい郵便切手関係の専門博物館。著名な切手収集家である水原明窓が私財を投じて設立した水原フィラテリー財団が運営するもので、郵便切手文化の振興と発展に寄与することを主目的としている。館内には、日本及び外国切手約35万種、ステーショナリー類約15,000枚、切手関連の書籍・カタログ約13,000冊、切手関連の雑誌・オークション誌約2,000タイトルを所蔵・展示している。館内は、企画展示とミュージアムショップのエキジビション・ゾーン、図書室と水原明窓記念コーナーがある。図書室には、世界最初の切手であるペニー・ブラック(1840年発行)や日本最初の切手である竜文切手(1871年発行)が展示されている。

館内展示コーナー
切手の展示
竜文切手
ペニー・ブラック

・参照:切手の博物館開館20周年記念「切手という小さなキャンバス」 https://kitte-museum.jp/museum20th_haru/
・参照:切手の博物館 – Wikipedia

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♣ 一筆啓上 日本一短い手紙の館(公益財団法人丸岡文化財団)

所在地:福井県坂井市丸岡町霞町3-10-1 Tel. 0776-67-5100
HP: https://www.tegami-museum.jp/

日本一短い手紙の館

  → 日本の手紙文化の復権を目指そうと設立されたユニークな手紙の博物館。人間関係が希薄と言われている現代、コミュケーションの手段として手紙の価値を見直そうとの関係者の想いが結集して誕生したのが、この「手紙の館」であるという。戦国時代の猛将 本多作左衛門重次が陣中から妻にあてた手紙文「一筆啓上 火の用心 お仙泣かすな 馬肥やせ」は簡潔な手紙の手本としてよく知られるところ。この四十文字の短い文に込められた深い想いが手紙交換の模範であるとして「一筆啓上 日本一短い手紙の館」と名付けられた。館内には、1993年から定期的に開催されている「日本一短い手紙 一筆啓上賞」の受賞作品ほか、簡潔な手紙文などが多数紹介展示されている。

館内の展示コーナー
「一筆啓上」の見本展示
発祥の地の碑

・参照:財団概要 – 公益財団法人 丸岡文化財団 https://maruoka-fumi.jp/zaidan.html
・参照:一筆啓上賞 – 公益財団法人 丸岡文化財団 https://maruoka-fumi.jp/ippitsu.html

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♣ 明治村内郵政資料館《重要文化財 旧伊勢郵便局舎》

所在地:愛知県犬山市内山1番地 博物館明治村内
HP: https://www.japanpost.jp/corporate/facility/museum/index04.html 

旧伊勢郵便局舎

 → 明治村の中に移設された「宇治山田郵便局舎」は、近代郵便制度の事業拡大にあわせて伊勢神宮外宮に建てられた郵便局舎で、重要文化財に指定されている歴史建造物。もとは伊勢神宮外宮の大鳥居前に建っていた。明治時代の本格的な木造郵便局として唯一現存する木造平屋建である。中央の頂きには円錐ドーム形の屋根、両翼には寄棟の屋根を伏せている。外部の装飾は北欧で見られるハーフティンバー様式となっており、欄間の漆喰塗りのレリーフも特徴的なもの。内部には、窓口業務を行っていたカウンター、郵便物の発着口、切手倉庫、電話交換室など、当時の郵便局機能を支えていた部分を見ることができる。貴重な建物と共に、当時の郵便業務のあり方を知ることができる。

局舎内部(ドーム)
局舎内部カウンター
再現の局舎業務室

・参照:旧伊勢郵便局舎(宇治山田郵便局舎) 文化遺産オンラインhttps://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/175312
・参照:宇治山田郵便局舎 | 博物館明治村https://www.meijimura.com/sight/%e5%ae%87%e6%b2%bb%e5%b1%b1%e7%94%b0%e9%83%b5%e4%be%bf%e5%b1%80%e8%88%8e/
・参照:博物館明治村簡易郵便局 – Wikipedia

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(郵便 了)

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