「食と農」の博物館(1) 農業技術の歴史と機構(博物館紹介)

    ―日本の農業発展と食文化の歴史と進化を占うー(1) 技術と農具ー 

 このセクションでは、日本の食文化がどのように形成され発展してきたかを、農業技術発展、食品技術の発展、食品開発の観点から展示する博物館を紹介している。また、各地に伝わる多様な食品、食材、菓子の特徴、メーカーの活躍などを“ものづくり”のこだわりが示されている。これを農業開発、家庭用一般食品、水産加工、発酵食品、酒造(洋酒、日本酒)などが日本でどのように生まれ発展してきたかを、各地にある資料館・博物館から眺めてみることにした。これら博物史料施設は多様であり、かつ数も非常に多い。この紹介コーナーではできるだけ沢山の施設を取り上げたが、漏れたものも多々あると思う。他のデータなどで補って欲しい。 第一回は「食」を支える農業技術の発展と機構

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 第一回「食」を支える農業技術の歴史と機構

(農総研、農協の博物館)

♣  農研機構の「食と農の科学館」)       

所在地:茨城県つくば市観音台3-1-1   Tel.029-838-8980
HP: https://www.naro.go.jp/tarh/
・参考:つくばの農研機構「食と農の科学館」を訪問https://igsforum.com/2023/04/29/shokuto-noh-kagakum-jj-pt01/

食と農の科学館入り口

→ 農研機構(NATO)の提供する博物館で、日本の食と農業に関連した新品種の紹介など新しい研究成果や技術を説明した包括的な研究資料館となっている。館内には研究成果を紹介するエリアと農業技術発達資料館の2つのエリアがあり、前者では、高付加価値を持つ農産物や食品の研究、後者では、日本でこれまで実際に使われ工夫されてきた農具、機械類を紹介している。

館内展示スペース

 展示は、日本の農村農業の抱える全般的課題、今後の農業あり方、省力化機械化、生産性向上などの課題を農業技術開発研究の点から検討する構成となっている。日本で蓄積されてきた水田畑作の技術力の活用と新技術の開発、土地生産性、労働生産性の向上のための工夫、高品質作物の生産促進を促す技術開発が主要なテーマである。具体的には、米、多様な穀物、野菜、果実などの高品質で安定的な生産技術、品種改良、病虫害防御、農業生産の省力化などに結びつく研究成果の紹介が中心となっている。 ここでは豊富な実験資料と研究成果の紹介など、日本の農業に関する現状と将来をみていく中で欠かせない情報を提供している。

食パン用米「ゆめちから」
トマトの「食物工場」
農場使用のドローン
各地の土壌分析
海外向けの新種果物

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なお、農研機構(NARO:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)は、農林水産各分野の専門研究センターのほか、北海道、東北、中日本、西日本、九州沖縄の各地域に農業研究センターを設立している。

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♣ 国際農林水産業研究センター(国際農研)

所在地:茨城県つくば市大わし1-1 Tel. 029-838-6313

国際農研の活動

HP: https://www.jircas.go.jp/ja

→ 国際農研は、開発途上地域などの農林水産業に関する技術向上、試験研究の推進、国内外の資料の収集・整理と分析結果の提供などを行う研究センター。農林水産省熱帯農業研究センター(TARC)を経て、2001年、国際農林水産業研究センターとして設立している。沖縄県石垣市に熱帯・島嶼研究拠点を設けている。

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♣ 農協記念館(北海道)

農協記念館外(士幌町)

所在地:北海道河東郡士幌町字士幌225番地20 
TEL/01564-5-3511
HP: https://www.ja-shihoro.or.jp/hall/

→ 北海道士幌町農協の歴史や事業を紹介すると共に、士幌農業を築いた太田寛一氏の業績を伝える記念館。士幌町農業協同組合創立60周年記念事業の一環として建設、農業研修や加工実習等を通じて、士幌の農業と農協活動を紹介している。

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♣ 秋田県立農業科学館

所在地:秋田県大仙市内小友字中沢171-4
HP: http://www.obako.or.jp/sun-agrin/

農業科学館全景

 → 秋田県の農業に関する知識を広めることを目的として1997年に設立、地池で築き上げてきた農業・林業・農山村生活・民俗に理解を深めることができる。第一展示室では、江戸時代から昭和30年代までの秋田県農業の変遷と稲作機械化以前の農山村の姿を展示、いて学ぶことができます。第二展示室: は農業と科学、食や農、県内農業の新しい情報などを提供、熱帯温室もあり、200種類の熱帯・亜熱帯植物が植栽されている。

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♣ 水原ふるさと農業歴史資料館(阿賀野市)

所在地:新潟県阿賀野市外城町10-5  Tel. 0250-63-1722
HP: https://www.city.agano.niigata.jp/soshiki/shokokankoka/kanko/4/2233.html

農業歴史資料館

 → この農業歴史資料館では、昔の農具、民具、出土品など農業関連の資料を提示するほか、農家の居間を再現、また併設している水原代官所に関する資料や当時のまちの歴史資料を展示している。

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♣ 庄内米歴史資料館 (JA全農山形)

所在地:山形県山形市七日町三丁目1番16号
HP; https://www.zennoh-yamagata.or.jp/topics/p-0362

庄内米歴史資料
資料館内展示

→ この資料館は、明治26年頃、米の保存と集積を目的に酒田米穀取引所の倉庫(山居倉庫)の1棟を改装し、米、特に庄内米にの資料や農具などが保存展示したもの。国指定史跡となった米どころ庄内のシンボルともなっている。

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(大学の農業博物館)

♣ 東京農業大学・食と農の博物館

所在地: 東京都世田谷区上用賀2-4-28  TEL:03-5477-4033
HP: https://www.nodai.ac.jp/campus/facilities/syokutonou/

東京農大世田谷キャンパス

 → 東京・世田谷の東京農業大学のキャンパスに設けられた「食と農」を題材とした博物館。東京農大は、前身を含めると130年の長い歴史を誇る農業関係の総合大学。それだけに、博物館は豊富な内容の農学標本と展示品を所蔵している。常設展示では、鶏の剥製標本、稲の標本、農具、酒造具や酒器、材木標本、日本の古民家再現展示などのほか、珍しいものでは、農大卒業生OBの酒造器紹介、各地の農産食品展示、二母性マウスなどの展示が見られる。また、日本における農学発展の歴史を刻む東京農大の歴史展示も興味深い展示である。隣接地には「バイオリウム」と名付けられた熱帯動植物園も設けられている。農業の歴史と農産品に関心のある人には訪ねる価値のある博物館の一つであろう。

復元された農家
米作り作業の模型
古い農具展示

<展示にみる江戸と明治の農学発展>

宮崎安貞
「農業全書」

 → 農業科学の歴史をみると、江戸時代から「本草学」という形の植物・薬学、農法知識は相当幅広く広がっていた。ちなみに、貝原益軒は『大和本草』を著して日本の動植物、農産物の分類・解説を行い、宮崎安貞は著書「農業全書」によって、穀物、野菜などの栽培方法、家畜飼育方法などの農業技術の普及に努めている。しかし、科学的な知識に基づく「農学」が日本に根付いたのは明治以降のことであった。北海道に招致されたクラーク博士の「札幌農学校」はこの嚆矢。

横井時敬
榎本武揚

   これと前後して、1878年(明治11年)、明治政府は東京に駒場農学校(後の東京大学農学部)を設置して、農学に関する総合教育・研究を開始している。 民間では、1891年、北海道開拓に関わった榎本武揚が「徳川育英会育英黌」農業科を設置、現在の東京農業大学農学教育の基礎を築いている。この初期の学長が横井時敬で実践教育を主導した農学教育の先駆者と見なされている。このように明治初期の明治政府にとって、生糸、茶などの輸出振興と食糧増産は、最も重要な政策課題の一つで、西洋技術を応用した農業振興(勘農政策)、農業教育が非常に重視された。こういった中で、明治に起源をもつ東京農業大学が農学教育の大きな役割を担い、現在でものその伝統は生きているようだ。

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♣ 東京大学 生態調和農学機構 農場博物館

所在地:東京都西東京市緑町1丁目1
HP:  https://www.isas.a.u-tokyo.ac.jp/museum/index.html

 → 農場博物館では、常設展示として農場が駒場にあった時代(1878~1935年)、農場で実際に使われた農機具や標本などとして収集された農機具・実験機器を展示している(駒場農学校コレクション)。いずれも、文化財的価値のある図解や書籍を中心に、「農業」・「食」の原点をテーマとした展示がなされている。ちなみに、農場本場は、1935年、駒場の地から現在の西東京市へと移り、2010年の組織改編によって附属生態調和農学機構の耕地および緑地フィールドへと名称変更している。博物館の母体となる農学校は、駒場農学校、東京農林学校、帝国大学農科大学附属、東京帝国大学農科大学附属、東京帝国大学農学部附属、東京大学農学部附属、東京大学大学院農学生命科学研究科附属へと変遷してきている。これらを通じ、大学機構は常に日本の農業科学の研究、実践において先進的な役割を担ってきたと見ることができる。(東大農場の歴史年表参照(https://www.isas.a.u-tokyo.ac.jp/museum/collections/komaba.html

コレクション(1)駒場農学校
コレクション(2)Bolensトラクタ –

コレクション(3) -獨逸農事圖解

・展示物:コレクション -駒場農学校 -農場博物館コレクション -Bolensトラクタ -農場博物館コレクション -獨逸農事圖解 -農場博物館コレクション -教草 -農場博物館展示 -トロッコ -農場博物館

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♣ 宮崎大学農学部 附属農業博物館

所在地:宮崎市学園木花台西1-1 宮崎大学木花キャンパス内 Tel. 0985-58-2898
HP: https://www.miyazaki-u.ac.jp/museum/

宮崎大学農学部
宮崎の農業 展示

 → 博物館は、本館のものと分館のもの分かれており、本館では、農・林・畜・水産業に関した資料、最新の研究とその成果を紹介、分館では、視聴覚機材を備えた講義室、実験室がある。常設展示として、宮崎の土壌、森のめぐみ、稲作の起源、宮崎の農業全般の展示があり、宮崎大学農学部の前身である宮崎高等農林学校から今日の農学部にいたるまでの歴史資料が紹介されている。

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♣ 農業教育資料館(岩手大学)

所在地:盛岡市上田3丁目18-8  Tel. 019-621-667
HP: https://www.iwate-u.ac.jp/academics/facility/hmae.html

農業教育資料館の建物

→ 明治35年に創立された盛岡高等農林学校本館に設けられた教育資料館(国の重要文化財)。創立当時の教育研究に使われた実験器具、教材用標本、幻灯機用スライドや図譜類、その他の歴史的資料が展示紹介されている。特に、寒冷地東北での農業、凶冷対策などの研究成果は注目されている。また、岩手大学農学部は宮沢賢治との縁も深く、宮沢の記念品も展示する「宮沢賢治センター」も設けられている。

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♣ 北海道大学植物園(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園)

所在地:北海道札幌市中央区北3条西8丁目  Tel. 011-221-0066
HP: https://www.hokudai.ac.jp/fsc/bg/

クラーク
農学校時代の植物園の姿

 → 植物園では、高山植物など北海道の自生植物を中心に約4000種類の植物が育成されている。そのほか博物館や北方民族資料室では、北海道の開拓や先住民族の生活・文化に関する貴重な資料を見ることができる。この植物園の歴史は、1877(明治10)年に、札幌農学校教頭W.S.クラークが植物学教育には植物園が必要であると進言したことに始まる。その後、植物園用地(現在地)が札幌農学校に移管され、初代園長となる宮部金吾が設計し、1886(明治19)年に開園した日本で2番目に古い植物園である。冷温帯種を主とした植物の分類・記載、標本・遺伝子資源の研究には欠かせない植物園となっている。

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(農業機械器具の歴史博物館)

♣ 農研機構「農業技術発達資料館」
    ―農業機械黎明期の機械と史料の博物館―

所在地:茨城県つくば市観音台3-1-1 (食と農の科学館内)
HP: https://www.naro.go.jp/tarh/floor/museum.html

・参考:「農業技術発展資料館」の見学https://igsforum.com/2023/05/06/nohgyotech-nogu-m-jj/
・参考:機械遺産:https://www.jsme.or.jp/kikaiisan/heritage_063_jp.html

農業技術発達資料館」

→ 資料館は、「食と農の科学館」の付設資料館として設立されたもの。先史以来、「米」は、日本人にとってなくてはならない主要食糧で社会的「富」の象徴であった。また、稲作をどのように進めるかは、常に経済・社会の基本テーマでもあった。この「資料館」見学は、このことを自覚させてくれる。水田耕作を中心とする米つくりは、田作り耕作、播種、施肥、刈取り、脱穀といった複数の工程から成り立っている。また、必要な用具(農機具)も多種多様で、この善し悪しが米の収穫、品質、生産力と作業効率に大きく影響する。このため、農具については古来より様々な智惠と工夫、発明がなされてきた。農業技術発達資料館は、この農具の発展を中心に、日本の稲作の発展、農業技術進歩の歴史を紹介している。

古代の農具
江戸時代の水車など
明治初期の農家
明治の農具
昭和のトラクターなど

 

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   古代の稲作と農具の改良、中世の土地制度と農業形態、江戸期の農業経営と農機具の革新、明治以降の新しい農業技術の導入と農機具の役割、昭和期の農機具の機械化、戦後期の農業経営と農機具の変化と時代をおって解説展示が行われている。また、資料館では、農業機具の実物展示のほか、明治以降の近代的農業の形成に大きな役割を果たした「農業試験所」の歴史にも触れていて興味深い。

<「農業試験所」の歴史と「農研機構」> 

旧農事試験場本館(創立当時)
澤野淳

 → 農業技術資料館の一部には、明治期に創設された「農業試験所」の歴史に関するパネル展示も用意されていて、日本の近代農業構築に関わる多くの事例と足跡を知ることができる。
 展示解説によれば、農業に関する試験研究が日本で組織的に行われるようになったのは明治時代以降であるとされる。明治政府は近代国家を目指した重要政策の一環として、海外から農業の専門家を招聘するとともに、多数の種子・農具の導入・試作・試験するための“農事試験研究施設”を設置した。このうち最も初期に設けられたもののひとつが、北海道開拓使によって1871年に札幌市に設立された「札幌官園」と「札幌農学校」。その後、相次いで「内藤新宿農事試験場」(東京新宿、1874)、「三田育種場」(東京三田、1877)、「駒場農学校」(東京・駒場、1878)、「播州葡萄園」(兵庫県、1880)が設立され、農業技術開発や試験、近代的な農学教育などが開始される。また、農商務省の「農事試験場」(東京西ヶ原、1893、初代所長澤野淳)の創立もほぼ同時期である。

農業技術研究所の碑(東京・滝野川)
東京大学農学部

 その後、北海道の「札幌農学校」は北海道大学、東京の「駒場農学校」は東京大学農学部に発展し、1893年創立の「東京農学校」(東京飯田橋)は東京農業大学へと発展、農業技術の研究、教育の中心となっていく。 また、国立の農業研究機関である「農事試験場」は、農業総合研究機構の基となる「農業技術研究所」となり、農業の実際面への応用のための農事試験と農事指導の中枢機関として発達していく。特に、品種改良,農具の開発、冷害対策などの理論面、実行面での試験研究の分野で大きく貢献している。研究の特色としては、個々の直接的な指導奨励よりももっぱら農業技術に関する基礎的な研究に重点をおいている。

農研機構
福島県農業研究センター

 そして、1948年、農業改良助長法の制定に伴い、都道府県における試験研究と普及事業の役割分担は明確化され、国の試験研究体制についても改革が進められた。その結果、国立の農業試験場については農業技術研究所、地域農業試験場の2種が設けられ、農林水産省の試験研究機関の時代を経て、2001年に国立研究開発法人、2016年に、現在の独立行政法人「国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構」(農研機構)となっている。
 現在は、前身の農業技術研究所の業務を引き継ぎつつ、都道府県、大学、企業等との連携による共同研究や技術移転活動、農業生産者や消費者への普及活動を進めているという。
 ・参照:農業技術発展資料館の見学(近代農業技術導入の嚆矢「農業試験所」の歴史と「農研機構」)https://igsforum.com/2023/05/06/nohgyotech-nogu-m-jj/

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♣ 小岩井農場「まきば園」と小岩井農場資料館

所在地:岩手県岩手郡雫石町丸谷地36-1.Tel. 019-692-5575
HP: https://www.koiwai.co.jp/makiba/dayori/2015/07/post-419.html

 → 小岩井農場は、岩手県岩手郡雫石町と滝沢市にまたがって所在する日本最大の民間総合農場。総面積は約3,000ha、そのうち約2,000haが山林、約630haが耕地で、中央部の40haを「まきば園」として一般開放している。小岩井農場資料館は小岩井農場酪農発祥の地「上丸牛舎」構内にある。資料館では小岩井農場130余年のあゆみや現在の事業、農場内の文化財や宮沢賢治とのかかわりなどが展示している。小岩井農場は「日本の20世紀遺産20選」に選定されており、農場内には重要文化財に指定された歴史的建造物も多く存在し、重要文化財の保有・保存・修復・管理と研究・公開等の業務は公益財団法人小岩井農場財団が担っている

<小岩井農場の歴史遺産>

農場開設者達

 → 明治22年に日本鉄道東北本線敷設工事視察で鉄道庁長官の井上勝は岩手を来訪した際、森林自然を鉄道敷設で失わせた償いとして、荒野となっていた網張街道周辺の地に農場を開設することを決め、三菱社社長の岩崎彌之助から出資を受け、4,000haの未利用地を購入し1891年(明治24年)に農場を創設する。農場名は、日本鉄道副社長の小野、三菱社社長の岩崎、鉄道庁長官の井上の三名の頭文字をとって「小岩井農場」と名付けられた。井上が農場主、岩崎が出資者、小野が保証人にあたることになる。 

(輸入された種牡牛「S・ロメオ・フェーン号」(1924)
乳業事業開始(1901年頃)
昔の児湯賄農場の姿

その後、1899年(明治32年)に三菱のオーナー一族・岩崎家の所有となり、戦前は競走馬の育馬事業も行われた。第二次世界大戦後、GHQによる財閥解体で1947年に第一次農地解放、1950年に第二次農地解放が行われ、約1,000haが満蒙開拓引揚者等に払い下げられた。現在は、東京に本社を置く小岩井農牧株式会社の経営となり、小岩井農場の事業は、酪農事業、山林事業、環境緑化事業、観光事業、食品事業、品質保証・環境対応・技術支援分野で広く展開されている。

 小岩井農場資料館 
宮沢賢治詩碑

 この小岩井農場施設のうち建造物21棟は、2017年、重要文化財に指定されている。ついでながら、岩手県生まれの詩人・童話作家宮沢賢治は、花巻で農業指導者として活躍しながら、「風の又三郎」、「銀河鉄道の夜」などの創作活動を続け、地元岩手をモチーフとした理想郷”イーハトーブ” を舞台とした童話などのなかで、数多く小岩井農場にも触れている。小岩井牧場の上丸牛舎の近くに宮沢賢治詩碑も建てられている。

・参照:小岩井農場の歴史|小岩井農牧株式会社https://www.koiwai.co.jp/history
・参照: 小岩井農牧株式会社https://www.koiwai.co.jp/

<文化財としての小岩井農場>

重要文化財ギャラリー

 小岩井農場には、明治時代から昭和初期にかけて建設された牧畜関連の建築物がまとまって残っている。牛舎やサイロのほかに、事務所、倉庫、宿泊や職員の集会用の施設である「倶楽部」、煉瓦の躯体に土をかぶせた天然の冷蔵庫など、農場に関わる各種の建物が残っている。牛舎には大空間を確保するためにトラス架構が取り入れるなど、建築史のうえでも注目され、これらの建築群は日本の近代建築史、近代農業史を知るうえで価値が高い。これらの建物を使用しつつ保存するということが所有者である小岩井農牧の方針であり、文化庁もこうした所有者側の意向に理解を示している。牛舎では現在も牛が飼われており、現役の農場施設として使用しつつ保存するということで、文化財保存の新たな方向性を示している。

一号牛舎
旧育牛部倉庫
一号、二号サイロ

・参照:小岩井農場重要文化財ギャラリー https://koiwaizaidan.or.jp/gallery/index.html
・参照:小岩井農場 – Wikipedia

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♣ 大橋松雄農業機械歴史館(福岡九州クボタ)

所在地:福岡県久留米市田主丸町以真恵日渡1481 Tel. 0943-73-3751
HP: http://www.fukuokakyushu-kubota.co.jp/museum/

農業機械歴史館外観

 → この機械歴史館では、近代日本の農業発展を支えた農具・農機農業の歴史に関する数多くの展示を行っている。これらは、大橋松雄(元株式会社福岡クボタ会長)が、長年かけて収集してきた農具・農機具・農業機械を展示するもので、展示機械の大半が可動状態に復元整備を施されている。

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♣ 博物館「土の館」(スガノ農機)

所在地:北海道空知郡上富良野町西2線北25号 Tel. 0167-45-3055
HP: http://www.tsuchinoyakata.jp/page/page000009.html

「土の館」 本館

 →北海道の開墾に立ち向かった人々の農機具や、国内外から採取した土壌モノリス(標本)を展示している「土の館」。北海道の土壌の特色・土地改良・土づくりの苦労などを学ぶことができる。また、併設のトラクタ館は、黎明期からのトラクタを多数展示している。これらは、北海道遺産、日本機械学会の機械遺産にも認定されている。

トラクター館展示
上下反転自由プラウ 1952)
プラスチックプラウ(GY16×4 1947)

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♣ とかち農機具歴史館(帯広市)

所在地:北海道帯広市川西町基線61番地
HP: https://www.city.obihiro.hokkaido.jp/sangyo/nougyou/shisetsu/1005846.html

とかち農機具歴史館

 → 帯広・十勝地域で明治時代以降に使用された農機具を約150点展示し、農業機械の発展について理解を深める施設として、2009年に開館した歴史館。地域では、豆・ビート・いもなどの畑作物、米や亜麻などが栽培されてきたが、栽培に使用した農機具を「人力〜畜力〜機械化」といった時代の変遷が分かるように展示している。

畜力式プラウ
(明治~昭和初期)
畜力式ディスクハロー (昭和20年代~)
M. ハリス ペーサー (昭和30年代)

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♣ 井関邦三郎記念館

所在地:愛媛県宇和島市三間町務田180-1 Tel. 0895-58-1133
HP: https://www.iyokannet.jp/spot/3527

井関邦三郎記念館

 → 農機具メーカー井関農機の創設者井関邦三郎の記念館。同社が開発した農業機械のほかに、井関氏の歩みを紹介するパネルや、生家、かつての井関農具製作所復元の模型などを展示。大正15年頃の全自動籾すり機(複製)、昭和40年代のトラクター・コンバインなども展示されている。版画家畦地梅太郎の記念美術館が併設されているのも特色。

館内の展示
農機などの展示物

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♥ (参考資料):近代農業黎明期の史跡と資料館

 ここでは、近代農業形成期の史跡や資料館、農業の歴史を伝える記念館、史料館などを掲載している。

♣ 神宮農業館(伊勢神宮)

 所在地:三重県伊勢市神田久志本町1754-1 Tel. 0596-22-1700
HP: https://www.iseshima-kanko.jp/spot/1185

神宮農業館

 → 神宮農業館は1891年(明治24年)に創設された農業博物館。人間と自然の産物との関わりをテーマとした日本最初の産業博物館として知られる。「自然の産物がいかに役立つか」がテーマで、神宮御料地関係の資料や明治の農林水産業の貴重な資料などが展示されている。伊勢神宮の神宮徴古館・農業館ともに国の登録有形文化財である。

館内展示室
神宮関係農業展示物

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♣ 北海道開拓村 旧農商務省滝川種羊場機械庫

所在地:北海道札幌市厚別区厚別町小野幌50-1 Tel. 011-898-2692
HP: https://itproject.xyz/2019/11/03/kyuunousyoumusyoutakikawa/

滝川種羊場機械庫の建物

 → 滝川種羊場機械庫は北欧の建築様式を取り入れて設計された農業機械庫。 機械庫には、緬羊の飼料となる牧草の栽培に使用する大型農機具類、トラクター、耕作機械などが展示されており、そこには北海道農業開発の深い歴史が刻まれている。

機械庫の解説版
農具の展示
開拓初期の農具

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♣ 史跡・旧札幌農学校校舎(札幌市北区)

所在地:札幌市北区北9条西8丁目北海道大学構内
HP: https://www.city.sapporo.jp/kitaku/syoukai/rekishi/88sen/01_13.html

旧昆虫学教室(北海道大学内)

→ 北海道大学農学部前には、旧札幌農学校校舎である明治34(1901)年に建てられた旧昆虫学教室や、明治35(1902)年に建てられた旧図書館読書室など、農学校時代の建物が今も残っており、当時をしのぶことができる。また、現札幌時計台の建物も札幌農学校の「演舞場」であったところで史跡となっている。(国登録有形文化財)
・参照:札幌の今昔記:(https://sapporo-jouhoukan.jp/sapporo-siryoukan/lekishibunko/konjaku/hokudai/hokudai.html

開拓使仮学校跡の碑(東京・芝公園内)
札幌農学校の演武場と 北講堂
初期の札幌農学校の全景(1879年(明治12年))


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♣ 史跡・「新宿農事試験場」の跡

所在地:東京都新宿区内藤町11番地 TEL 03-3341-1461
・参考:https://fng.or.jp/shinjuku/2024/05/05/20240505-01/
・参考:新宿御苑から始まる農工大150周年(https://web.tuat.ac.jp/~museum/dm150/reference.html

明治8年に建てられた旧温室

 → 新宿御苑の「農事試験場」の跡。明治時代に入り、政府は江戸時代から続く内藤家の邸宅地と周辺地を購入、1872年(明治5年)に近代農業振興のための「内藤新宿試験場」を設立. その後、内務省の勧業寮に引き継がれる。場内には、牧畜掛、樹芸掛、農事修学所、製茶掛、農具掛、農学掛などが発足し、勧業寮新宿支庁が置かれた。目的は「内外の植物を集めて効用や栽培の良否、害虫駆除の方法などを研究し、良種子を輸入し、各府県に試験させ、民間にも提供する」ことで、国家規模での農業技術行政の取り組みの一環であった。そして、紆余曲折の後、1949年、国民公園として一般公開されることになる。苑内には、明治8年に建てられた旧温室などがある。

『内藤新宿勧農局試験場内麁絵図』
新宿農事試験場の営業案内
(明治43年)

・参照:【新宿御苑の歴史探訪】新宿御苑の歴史を辿るー近代農業技術の始まりと発展―https://fng.or.jp/shinjuku/2024/05/05/20240505-01/
・参照:施設及び歴史的背景|新宿御苑|国民公園|環境省宿試験場

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♣ 史跡:「農業技術研究発祥之地」の碑

所在地:東京都北区西ヶ原2丁目 滝野川公園内 Tel. 03-3908-9275
参照:https://note.com/kuroda0805/n/n557eb47d49c3
参照:https://840.gnpp.jp/nogyogijutsukenkyu/

農業技術研究発祥之地の石碑
澤野淳

 → 東京北区の 滝野川公園の一角に「農業技術研究発祥之地」の石碑がひっそりと建っている。そして、碑文には次のように記されている。
 「農業技術研究発祥之地明治26年4月 農商務省農事試験場が この地 東京府北豊島郡瀧ノ川村西ヶ原に創設され 我が国の農業技術研究は発祥した。爾来87年 その間 昭和25年4月 農業技術研究所 と改称される等 組織機構の 変遷はあったが「西ヶ原」は常に近代農業関係試験研究機関の母体として 多くの輝かしい業績により 農業の発展に寄与してきた。 昭和55年1月 国立試験研究期間の筑波研究学園都市への移転に伴い この地での研究を終わる。「西ヶ原」の栄光の不滅を祈念し ここに記念碑を刻む」
・参考:明治期の王子・滝野川 ~ 王子・滝野川~(このまちアーカイブス)https://smtrc.jp/town-archives/index.html

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♣ (参考資料)農業に特化した主な博物館の図

・参照:日本農業新聞ー[知りたい聞きたい伝えたい]#夏にお薦め、農の博物館は? ーhttps://www.agrinews.co.jp/society/index/250147 より

(農業技術と機構の項 了)

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