ー 日本の産業近代化を促した製糸、紡績業の歴史と技術の産業資料館

ここでは、明治初期から振興されたの紡績と繊維産業などの技術と歴史を示す産業資料館を紹介。特に、当初欧米からの紡績機械を導入して明治大正昭和と日本の基幹産業に成長した近代的な紡績・織布事業発展を示す歴史資料館を取り上げる。しかし、時代は変わり、現在、これら紡績・繊維産業は主力産業の地位を譲りつつあるようだ。一方では、これら発展によって育まれた技術を活用し、新しい分野の進出も顕著である。それぞれが、化成品、化粧品、医薬、新素材などへの転換・進出が様子が見える様子がみえる。現代にあった新しい技術の系譜が生まれつつあるといえよう。ここでは主要な紡績メーカーであった企業の歴史と製品取り上げた史料館をみることとする。
♣ 倉紡記念館(クラボウと紡績産業ミュージアム)
所在地:岡山県倉敷市本町7−1 Tel. 086-422-0011
HP: https://www.kurabo.co.jp/museum/
所在地:岡山県倉敷市本町7−1 Tel. 086-422-0011
HP: https://www.kurabo.co.jp/museum/


→ 倉紡記念館は、岡山県倉敷市にあるのクラボウと紡績産業のミュージアムである。1888年に創業したクラボウ(倉敷紡績)は、紡織業を中心に130年以上の歴史を築いてきた老舗企業。その歴史を現代に伝えようと誕生したのが「倉紡記念館」。創業当時の原綿倉庫をリニューアルして記念館にしたもので、建物自体が当時の姿を今にとどめる歴史資産となっている。記念館ではクラボウの創業から現代までの事業展開の様子を伝える貴重な文書・写真・映像・模型などを豊富展示しており、日本の紡績業発展の一つの形を表すモニュメントとなっている。




記念館展示は、5つの展示室から構成されており、第1室は明治の創業時代の紡績機械や文書、第2室は 大正時代のクラボウの発展期の資料を展示、第3室は昭和時代の不況と戦争期の時代背景とクラボウの変遷、第4室は戦後・平成に至る紡績産業の行方とクラボウの事業の多角化の歩みを、それぞれ時代を追って展示している。最後の第5室は年表コーナーで明治から現在までの総まとめでビデオと写真映像、書籍などを展示するかたちとなっている。


戦後クラボウは、繊維以外への取り組みを図り様々な事業展開する総合化学品エンジニア企業へと転換している。

(1970年代)



クラボウの歴史をみると、日本における紡績業の発展の一翼を担ったほか、社会問題へも積極的に関わっており、地域社会への貢献のために様々な取り組み、従業員の労働環境の改善にも尽くしたことでも知られる。特に、創業者のひとりである大原孫三郎は、数多くの社会貢献活動に力を注ぎ、「倉紡中央病院」(現 倉敷中央病院)、「倉敷労働科学研究所」(現 大原記念労働科学研究所)の設立を主導したほか、多彩なコレクションで知られる大原美術館も設立している。


一方、倉敷のクラボウの関連施設として「倉敷アイビースクエア」が知られており、明治時代の倉敷紡績所(現クラボウ)発祥工場の外観や立木を保存し、再利用して生まれた複合観光施設として機能している。中には、ホテル・文化施設、体験施設や倉敷の工芸品や民芸品、銘菓などのショップなどがある。この施設内の旧倉敷紡績所は、2007年、日本の産業の近代化に大きく貢献したとして、創業時における紡績工場建物群が国の「近代化産業遺産」に認定されている。

☆参考
・クラボウヒストリー https://www.kurabo.co.jp/kurabo-history/
・大原孫三郎人物伝 https://www.kurabo.co.jp/sogyo/
・倉敷アイビースクエア https://www.ivysquare.co.jp/
♣ 東洋紡岩国事業所史料館
所在地:山口県岩国市灘町1番1号 東洋紡岩国事業所 Tel.0827-32-1700
HP: www.toyobo.co.jp
参考:東洋紡岩国事業所史料館の概要https://www.totalmedia.co.jp/task/works2018-toyobo-iwakuni/


→ 東洋紡(東洋紡績)は、、前身が大阪紡績株式会社(1882年創立)で、かつて日本の紡績業をリードした名門の紡績企業の一つであった。現在は、化成品、機能材、バイオ・メディカルへと事業を拡大する総合化学品メーカーとなっている。この東洋紡の130周年の歴史、その中核となった岩国事業所の歩みを伝えているのが「東洋紡岩国事業所史料館」。史料館では、創業者の思い述べた設立理念を基点に、企業の歴史を示す古写真や実物資料、歴史年表を中心に東洋紡の歩みを体系的に展示している。
<史料館が伝える東洋紡績の創立・発展の系譜>


明治12年(1882年)、日本の紡績事業を基幹産業として発展させようと、山辺丈夫(初代社長)が、財界人渋沢栄一、藤田伝三郎、松本重太郎などの援助を受け、当初、大阪紡績を創業、続いて三重紡績を設立し当初欧米の技術と機械を導入して本格的な紡績業に参入した。1914年には、両者を合併し「東洋紡績株式会社」を成立させる。これが現在の東洋紡である。その後、伊勢紡織、名古屋絹紡などを吸収合併し、1920年代にはレーヨン事業に進出。1930年代、40年代にかけては、和泉紡績、吉見紡織、東洋毛織などとも合併して業域を広げている。
戦後になると、東洋紡績は合繊事業に進出してアクリル繊維の生産を開始、70年代にはポロエステルボンドの生産もはじめている。一方、フィルム、プラスチック事業にも参入、バイオ事業、電子材料など非繊維部門への進出も図っている。技術開発では、創立100年を迎えた1982年には、「バイオテクノロジー研究財団」を設立させている。2000年代になると、業域拡大による無理が祟ってか工場の火災や事故が多発、安全認証の不正などが発覚するなど経営困難に陥いるといった不幸にも見舞われている。このように、大正・昭和の紡績事業の花形企業が、市場の変化と海外との競争、技術革新の波にもまれつつ、新しい事業の構築と他の新分野への転換をどのように実現していくか問われるところである。このように、当史料館は、日本の繊維企業の浮沈と新展開の史をみる上でも参考になると思われる。



♣ ユニチカ記念館(旧尼崎紡績本社事務所)
所在地:兵庫県尼崎市東本町1-50 Tel.06-6375-5639(問合せ市役所)https://www.archives.city.amagasaki.hyogo.jp/apedia/index.php
- 参考:
・大日本紡績の誕生と摂津紡績 https://www.unitika.co.jp/company/archive/history/pdf/nichibo01.pdf
・新生大日本紡績の拡大と多角化
https://www.unitika.co.jp/company/archive/history/pdf/nichibo02.pdf
・わが国綿業の近代化と尼崎紡績の創立 (~明治45年)
https://www.unitika.co.jp/company/archive/history/pdf/nichibo00.pdf
・双日歴史館 (sojitz.com) https://www.sojitz.com/history/jp/


→ ユニチカ記念館は、ユニチカの前身にあたる尼崎紡績の本館事務所として使われた「旧尼崎紡績本館事務所」を記念館として転用している。この本館事務所は、関西では珍しい日本の建築家が設計した英国式のレンガ造りの洋風建築で、内部の所蔵品は、阪神工業地帯発展の歩みを物語る歴史遺産品を多く含み、経済産業省による「近代化産業遺産」として認定されている。この事務所は、一時他の用途に転用されたが、1959年日紡記念館、1964年にはニチボー記念館となり、1969年以降は会社合併によりユニチカ記念館となっている。記念館は兵庫県の景観形成重要建造物等にも指定されている。ユニチカは、1889年、日本の紡績史を開いた「尼崎紡績」を前身とするが、1918年以降は三大紡績のひとつ「大日本紡績」として日本の繊維産業を支える企業となった。1969年「日本レイヨン」との合併によって、社名をユニチカと改め現在に至っている。


♣ グンゼ博物苑とグンゼ記念館
所在地:京都府綾部市青野町(〒623)Tel 0773-43-1050
HP: https://www.gunze.co.jp/gunzehakubutu/


→ グンゼ博物苑は、グンゼの創立100周年を記念し大正時代に使用していた繭蔵を改造して1996年に開苑した博物津施設。グンゼ発祥の地、京都府綾部市に歴史的な建物を活用し、グンゼで使われた機械、書類資料などを一堂に集めた産業技術史的な資料館となっている。苑の中には、庭園も設けられ、多くの展示館(蔵)や同社の発端となった製糸業に関係する幾もの桑の品種も集められ展示されている(「桑の苑」約500品種、2,000本を栽培)
<展示蔵の展示>
博物苑の展示部分は、3つの展示蔵(創業蔵・現代蔵・未来蔵)、「今昔蔵」、グンゼ記念館で構成され、昔と今の繊維メーカー“グンゼ”の成り立ちと現在が詳しく紹介されている。まず、展示蔵のうち「創業蔵」は、蚕糸業をスタートさせた創業者波多野鶴吉の生涯、使用していた械や道具などを展示、「現代蔵」は現在の多様化した事業活動、製品の紹介、「未来蔵」は将来に向けての事業展開、開発製品や技術を紹介・展示するコーナーとなっている。これとは別に「今昔蔵」ではグンゼの地・綾部とグンゼの関係を記した展示がなされている。



<グンゼ記念館展示>
「グンゼ記念館」では、グンゼの創業当時にさかのぼった事業、製品、事務所の様子を記録した様々な歴史史料が保存、展示されている。これらを順に見て歩くことで、日本の製糸・繊維産業の発展の一端を担った有力企業グンゼの全体像に触れることが期待できる。


♣ 東レ記念館

所在地:滋賀県大津市園山1-1-1 Tel. 077-537-0770
HP: https://www.toray.co.jp/ir/library/lib_008.html
参考:https://www.senbism.toray/stories1/
https://www.toray.co.jp/aboutus/download/pdf/1956.pdf

→ 東レは、1926年、化学繊維メーカーとして三井物産の支援で創立、滋賀県大津市に滋賀事業場を開設、生産を開始している。1970年に社名を「東レ」と改めているが、この滋賀事業場を同社の「記念館」として開館している。一般向けには公開していないようであるが、投資家や関連技術者は見学が許されており、動画でも館内展示の内容が紹介されている。



この動画展示によって、創業時の東レの企業活動、技術開発が丁寧にパネルや写真、当初の製品群などと共に丁寧に解説されており同社発展の歴史がよくわかるのである。中でも、戦後、デュポン社との技術提携でうまれたナイロン繊維開発、ポリエステル繊維の大きな市場インパクトの様子が伝えられている。また、記念館とは別に、東レでは「イノベーションプラザ」を設立されており、近年の新しい事業と技術展開、製品開発の内容も紹介されていて興味深い。特に、人工皮革「エクセーヌ」、自動車用内装材、航空機の機体にも使われる炭素繊維、医療用素材、繊維では「ヒートテック」微細繊維眼鏡拭き「トレシー」などが有名である。



♣ 帝人の歴史と「テイジン未来スタジオ」
所在地:東京都千代田区霞が関3-2-1 霞が関コモンゲート西館 Tel. 03-3506-4055HP: https://www.teijin.co.jp/news/2019/20191126_2503.html
○参考(1): 帝人の歴史を刻む「鈴木商店記念館」(人絹国産化を実現した帝国人造絹糸)〒650-0023 兵庫県神戸市中央区栄町通7丁目1−1HP: https://www.suzukishoten-museum.com/footstep/company/cat5/
○参考(2):秦逸三教授記念展示室(旧米沢高等工業学校)https://www.suzukishoten-museum.com/footstep/area/yonezawa/post-28.php


→ テイジン(帝人)は、東レと並ぶ日本の有力化学繊維メーカーで、ポリエステル製品を中心に市場を広げてきた企業であるが、最近では、新分野の医薬事業や炭素繊維による自動車部品の開発に力を入れ業績を伸ばしている。このテイジンが将来に向けた事業展開をアピールするために設立されたのが「テイジン未来スタジオ」。帝人グループの最新の技術や製品・サービスを展示し紹介している。2019年にリニューアルし、新開発の樹脂、新繊維技術などを活用した展示がなされており、中でも炭素繊維を使ったコンセプトカー「PU_PA(ピューパ)は人気を呼んでいるようだ。



<テイジンの歴史>


この帝人の創業、企業としての発展については、この「帝人グループ」を育てた明治の財閥企業鈴木商店の「鈴木記念館」において詳しく紹介されており、樟脳、セルローズ樹脂からはじめて人造絹糸を創出するまでの過程、輸入技術を使ったポリエステル製造の取り組み、アラミド繊維の開発などの歴史が時代を追って解説されている。


この中では、旧米沢高等工業学校(現山形大学)で天然の絹に代わる「人絹」創出努力に関わった秦逸三、セルローズ繊維再生方法の研究を行っていた久村清太の貢献が述べられており、これをサポートした鈴木商店の企業家金子直吉の功績が協調されている。かれらは大正6年(1917年)に「帝国人造絹糸」を苦労の末設立を果たし現在の帝人の基礎を築いている。当初は十分な人絹の質が保てなかったが、次第に改善され市場が広がり1930年代には海外への輸出も開始している。



戦後には英国からのポリエステル、テトロンの技術提携が実現し業績が拡大、社名も「帝人」と改めた。近年では、テトロンだけでなく、培った高分子技術をベースとして樹脂事業、フィルム事業と事業領域を拡げ、繊維においてもアラミド繊維、炭素繊維など次世代高機能繊維の有力メーカーとなっている。「記念館」には、これらの歴史経過の解説が詳しいので参考になる。これらをみると、帝人ばかりでなく日本の繊維産業、特に化学繊維の勃興と発展、技術の国産化、ものづくりの展開がよく示されているといってよいだろう。





ちなみに、「鈴木 商店記念館」は、2014年4月、鈴木商店の親睦会組織である辰巳会の有志によって営まれており、双日をはじめ神戸製鋼所、帝人など鈴木商店ゆかりの企業22社の協賛によって設立されている。記念館では、鈴木商店の歴史、人物、企業を紹介する他、鈴木商店関連の史跡が残されている神戸市などをガイドマップ形式に紹介。また写真館のコーナーでは、関連する写真の他、絵葉書、広告なども閲覧することができる。
参照:(https://www.suzukishoten-museum.com/)